パリで芝居を見る | パリ散策 | フランス留学

パリ散策


パリ散策

はじめに

「フランスは、私にとって冷たい恋人のようなもの」と、ある知人は言った。冷たくされても冷たくされてもやっぱり好き、なのだそうだ。概して、フランスの好きな日本人は、皆、このように片思いに胸を痛めている。あるいは、私の兄のように「前世はフランス人だった」と思いこみ、幸せにも優越感に浸る。どちらにしろ、はっきり説明できる理由も見つからぬまま(前世フランス人だったというのは理由にならないこともないが)、引きつけられズボズボとはまり、気づくと、日本に帰りフランス語学校に登録しているのである。

私はというと、フランスの都市と聞かれて、悩んだあげくやっとパリと答えられるくらいしかフランスには興味がなかった。上司に「パリへ行ってくれ」と言われたときには、モスクワへ行ってくれと言われるほど不安も感じなかったが、ニューヨークへ行ってくれと言われるほどドキドキもしなかった。それだけ、フランスもパリも遠い存在だった。フランスへ来ることと引き替えに失うものを考えて躊躇していた私に、フランス行きを命じられたのがまるで自分であるかのように興奮した例の兄は「お兄ちゃんのために行け。お兄ちゃんはフランス人の弟がほしい。」と言った。(こうして後込みする私の背中を押してくれた兄ではあるが、それから二年後、実際に「ほ〜ら、お兄ちゃんの願いかなえたよ。」と夫を紹介したときには、遅ればせながら事の重大さにいささかびびっているようだった。)こんな風に人の手を借りなければフランスへ行く決心すらできなかった私ではあるが、二年間、そのまま無関心を通したわけではない。もし夫と知り合うこともなく派遣の契約期間を終えて日本へ帰っていたら、今頃私も東京の日本語学校に勤めながら、次の休みにパリへ行くのを楽しみに、夜はせっせとフランス語学校にでも通っていたことだろう。

いったい、なにがそれほど魅力的なのか、私は未だ解明できずにいる。兄は「色」だと言った。初めてフランスの地に立ち、街の色を見たとき、彼はすべてを悟ったらしい。確かに、私にも、フランスに来た当初のことだがあまりに印象的であったのか今でも鮮明に覚えている風景がある。地下鉄の暗い駅を出て階段を上ると、青空の下に飛び出す絵本のようなパリの町並みが広がった。まぶしい太陽の光に少し目を細めて辺りを見渡すと、石造りのアパートの窓は色とりどりの花で飾られていた。この街に立っていることが幸せに感じられた。やはり私もこのときパリに一目惚れしたのかもしれない。

この「パリ散策」は、こんな不思議な魅力を持つパリの私が選んだすてきな一角の紹介である。観光ではなく、一歩踏み込んだパリ。パリ恋しさに胸を焦がす方々へ眠れぬ夜のおなぐさみ。

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