パリで芝居を見る| パリ散策 | フランス留学

パリで芝居を見る

コメーディーフランセーズといった伝統的な国立劇場から、100席以下の芝居小屋と呼ぶにふさわしいものまで、パリには「テアトル」と呼ばれる劇場が、そこかしこに点在しています。

きっかけは、モリエール

テレビを見ることさえ苦痛(分からなくて)だった私が、コメディーフランセーズへ行こうと思い立ったのは、学校でモリエールの「病は気から」を勉強したときでした。

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医者を装った女中が、自分が重病だと思い込む主人の診察をする。かかりつけの医者に脾臓が悪いと診断された主人に、女中は脾臓ではなく問題は肺だという・・・

「肺、ですか?」

「そう、肺です。最近からだの調子は?」

「ときどき頭痛がします。」

「やっぱり、肺ですね。」

「目の前に霞がかかった感じもあります。」

「肺です。」

「ときたま心臓も痛みます。」

「肺です。」

「体中疲れを感じることもあります。」

「肺です。」

「突然、激しい腹痛におそわれることもあります。」

「肺です。食欲はありますか?」

「はい。」

「肺です。ワインは好きですか。」

「はい。」

「肺です。食事のあと眠くなったりしますか?よく眠れますか?」

「はい。」

「肺、肺、肺。だから肺だといってるでしょう。」

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モリエールの笑いが私の琴線に、ビンビン響いて切れるかと思いました。「これは行くしかない。」と、私はコメディーフランセーズへ行き「女学者」のチケットを購入したのでした。

まだ悲劇を見に行く勇気はありません。アレクサンドラン(12音節詩句)の美しさを理解できる能力などあるはずもなく、たぶん作品完成度の半分も味わえないと自覚しているからです。というわけで、このページで紹介するのも、すべて喜劇・笑劇です。

せっかくフランス語を勉強した(している?)なら、パリで芝居を見るのも悪くないのではないでしょうか。少なくともモリエールの作品なら楽しめることは間違いありません。私も、まだ数をこなしたわけでもないし、演劇をかじったことさえない素人なので、あまり役立つ情報は提供できませんが、小耳に挟むつもりで流し読んでください。

予約方法、劇場情報

作品紹介


予約方法

  • 電話する
  • 劇場へ行って予約する

・インターネットで予約する

開場前、劇場へ直接行って当日券購入が可能な場合もあり。しかし、当日券はリスクが大きいのでやはり予約しておくほうが安全。劇場によっては、若者対象(25歳未満、学生の場合27歳未満適応)の当日券割引制度がある。3時間以上前に並んで空席があれば、席の善し悪しにかかわらず格安の一律料金で購入できるというもの。特等が空いている場合などは思わず顔もほころぶ。

劇場情報(国立)

コメディーフランセーズ SALLE RICHELIEU892席)

2, RUE DE RICHELIEU, 75001 PARIS(メトロ)PALAIS-ROYAL

電話:01.44.58.15.15(受付時間:11時〜18時、14日以上前)

30〜190フラン、若者対象当日券割引制度有り(65フラン)ホームページ有り

コメディーフランセーズ THEATRE DU VIEUX-COLOMBIER330席)

21, RUE DU VIEUX-COLOMBIER, 75006 PARIS(メトロ)ST-SULPICE

電話:01.44.39.87.00または01.44.39.87.01(受付:14日以上前)

160フラン、若者対象当日券割引制度有り(65フラン)

ODEON THEATRE DE L'EUROPE1042席)

PLACE DE L'ODEON, 75006 PARIS(メトロ)ODEON

電話:01.44.41.36.36(受付:11時〜19時、上演初日15日以上前)

劇場受付は11時〜18時30、月〜土、30〜170フラン

劇場情報(その他)

MADELEINE728席)

19, RUE DE SURENE, 75008 PARIS(メトロ)MADELEINE

電話:01.42.65.07.09(受付:11時〜19時(月〜土)、11時〜17時(日)

20時30分開演(火〜土)、15時30分開演(日)

90〜180フラン、25歳未満学生70フラン

HUCHETTE100席)

40年以上前からイヨネスコの「禿の女歌手」「授業」両作品を毎日上演しつづけている劇場

23, RUE DE LA HUCHETTE, 75005 PARIS(メトロ)ST-MICHEL

電話:01.43.26.38.99(受付:17時〜21時

100フラン(同日2演目160フラン)、25歳未満学生(土曜除く)80フラン、日曜休

その他の劇場、演目に関する情報ホームページはこちら


作品紹介

目次


第1回  1998年9月7日、コメディーフランセーズ SALLE RICHELIEU

"LES FEMMES SAVANTES" MOLIERE

死を迎える一年前、1672年に書かれた作品(和訳「女学者」)。この作品の次に書かれたのが、モリエール最後の作品「病は気から」である。

母フィラマントは娘オンリエットと学者トリソタンとの婚約を決める。しかし、オンリエットは恋人クリタンドルとの結婚を望んでいた。父クリザルは、そんな娘の気持ちを知っていながら、例のごとく、妻に意見することもできない。オンリエットとクリタンドルの気持ちをよそに、学者としてのトリソタンを高く評価するフィラマントは、トリソタンとオンリエットの結婚話を押し進める。そんな折り、フィラマントに破産の知らせが届く。この話を聞き「結婚話はなかったことに」とトリソタンはフィラマントの前から立ち去るが、クリタンドルは、オンリエットに対する自分の気持ちは以前と変わらぬと言う。こうしてクリタンドルとオンリエットの結婚は認められ、フィラマント破産の知らせも、実はトリソタンの化けの皮をはがすために仕組まれた単なる策略にすぎなかったことが分かる。

トリソタンには、一目見た瞬間から、「ああ、これが」とわけもなく納得してしまうような衝撃を与えられました。究極の誇張といった演出です。夕食の場面では、本当にガツガツ食いながら話をするので、口から色々な物が飛び出していました。この場面に象徴されるように、とにかく終始圧倒される舞台でした。やはり「本場」というところでしょうか。

作品紹介・目次


第2回 1999年12月13日、MADELEINE

"JACQUES ET SON MAITRE" MILAN KUNDERA

原作は、ディドロの「宿命論者ジャックとその主人」("JACQUES LE FATALISTE" DIDEROT)。ディドロは18世紀のフランス啓蒙思想家、「百科全書派」として知られる。

ジャックは主人とともに旅をしている。単調な時間の流れる道中、ジャックは自分の恋物語を語り始める。しかし、このジャックの話は、主人の横槍、ディドロの個人的意見、旅のアクシデント、様々な人々との出会いとその物語などに邪魔をされ、なかなか先には進まない。ジャック自身も、話し好きゆえに自ら横道へと外れ、友達の身に起きた災難など話し始める。ジャックや主人の恋物語、宿屋の女将が語るポムレー夫人の話など複数の小さな二次的物語が次々と展開する中で二人の旅が進む。

学校の授業の一環として見に行ったもの。原作を勉強していたので、よかったのですが、作品に関して知識がないと少し難しい作品かもしれません。最低でもポムレー夫人の物語部分は読んでおかなければ苦しいでしょう。今回の演出は、新聞、雑誌などでの評価も高く、かなりの成功を収めたという話ですが、残念ながら終わってしまったので、一応演出家、役者の名前だけでも次回参考に。

演出家: NICOLAS BRIANCON

出演: MARIE PITON, YVES PIGNOT, NICOLAS BRIANCON

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第3回 1999年2月19日、コメディーフランセーズ THEATRE DU VIEUX-COLOMBIER

"GEORGE DANDIN OU LE MARI CONFONDU" MOLIERE

裕福な田舎の百姓ジョルジュ・ドンダンは、自らの社会的地位向上を願い、地方の破産貴族ソトンヴィルの娘アンジェリックを妻に迎える。彼らの借金返済と引き換えに「ジョルジュ・ドゥ・ラ・ダンディニエール」と名乗る権利を得るが、妻の家族は彼を認めず、あくまで身分の違いを強要する。ジョルジュは、ある日、隣人のクリタンドル子爵と妻アンジェリックが内通していることを知る。妻の不貞を両親に訴えるため、密会現場を押さえようと試みるが、確固とした証拠も得られず、常にジョルジュが謝罪するはめとなる。ある夜、ジョルジュは、妻が愛人のもとへと家を出るのを待ち、ドアの鍵をかける。閉め出されたアンジェリックが嘆願する声にも耳を貸さない。ついにジョルジュは勝利を確信する。しかし、アンジェリックの巧みな術策により、状況は再び逆転、ジョルジュはまたも屈辱を味わう。疲れはてたジョルジュ・ドンダンは、もう水に身を投じるほかないとつぶやく。

本に目を通さず出かけたところ、喜劇と呼ぶには、あまりにもやりきれない悲しさのような余韻が残り、納得のいかない気持ちで劇場を出ました。帰って本を開き、解説を読んでみるとどうやら私の印象は、全くの見当違いでもないようす。「モリエールの笑いが変わりはじめている」などとの批評も受け、この作品は、つまり、「不愉快」な類の作品に属し、モリエールの中でも際物扱いというわけです。さらに解説を読み直すと、「登場人物の誰一人として、好印象を与えるもの、同情に値するものはいない」とありました。少々、混乱・・・たしかに、ジョルジュがもっと下品で不潔な人物であったら・・・ジョルジュがただ社会的地位欲しさに結婚したことがもっと強調されていたら・・・これほどやりきれない印象を受けることもなかったのかもしれないととりあえずは納得しました。今回のジョルジュは「同情に値しない」人物として描かれてはいなかったわけです。演出が変われば印象も変わるのでしょうが、少なくとも今回の演出では、話の内容はとても笑えるものではありませんた。「同情に値しない」ジョルジュの演出であったら、もう一度見てみたいと思いますが、やはり好きにはなれないでしょう。

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第4回 1999年3月19日、コメディーフランセーズ SALLE RICHELIEU

"LES FOURBERIES DE SCAPIN" MOLIERE

モリエールの戯曲「スカパンの悪だくみ」1671年初演。

アルガントとジェロントの旅行中、それぞれの息子オクターブ、レアンドルはともに恋人を見つけるが、親に無断の結婚は難しい。そこで、従僕のスカパンが恋人たちのために次々と計略を巡らし、締まり屋の老人たちから金を搾り取る。のちに計画が露見し、スカパンは窮地に陥るが、恋人たちはめでたく結ばれ、それに免じてスカパンも許しを得る。

軽快でドリフのコント的な物語、劇場には子供や学生の姿が多く見られました。有名な「袋」の場面など特に、演出は体を使ったダイナミックなものでした。個人的には笑いの内容が少し軽薄すぎる感もありましたが、誰にでも楽しみやすい作品のようです。話が短く語彙も比較的易しいので、劇場に向かう前にまず本を読んでおくといいでしょう。"Que diable allait-il faire dans cette galere ?" というのは、大変有名な台詞。フランス人ならほとんど知っているようです。

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第5回 1999年8月21日、HUCHETTE

"LA CANTATRICE CHAUVE" IONESCO

フランスの前衛劇作家イヨネスコの処女戯曲「禿の女歌手」

妻は刺繍の道具を手に昼食の話などする。夫は横で新聞を読んでいる。やがて二人の客が訪れる。二人の客はお互いが以前どこかで会ったことがあるのではないかと話を始める。やがて二人は、自分たちが夫婦であると気づく。夫婦の日常が無意味に展開される様子を通して空洞化された現実社会を描く。

表題と内容は全く関連性がありません。当たり前ですが、アンチ・テアトルの先駆けといわれるこの作品を、モリエールと同じつもりで見に行ってはいけません。日常の会話とは、単なる単純な言葉の繰り返しであり、内容は空洞化しているという思想が背景にあるなどというと思わず身を引いてしまいがちですが、芝居自体は「漫才ブーム」といわれた頃よくテレビで見たコントを思い出させる、素直に笑える心地よいものでした。役者の演技もすばらしく、間の取り方など大劇場では不可能といえる演出がとても新鮮。いつでも上演しているのでとにかく一度見てみること、お勧めします。

"LA LECON" IONESCO

イヨネスコ初期の作品「授業」

気の小さい教師のもとに、生意気な女子生徒が訪れる。しかし、いつしかこの力関係は逆転し、抑圧的な教師に女子生徒が屈服してゆく。そしてこの逆転劇はクライマックスを迎え、一つの犯罪で幕を下ろす。

舞台上の人物のいらだちが客席を埋めるようで、なんだか息苦しくなる芝居でした。たしかに印象的ではありますが、誰もが楽しめるとはいいにくいです。語彙が難しいうえ、役者が高揚して話すのでかなり分かりづらい部分が多くありました。十分に理解するには、やはり事前に本をじっくり読んでおくことが必要なようです。

作品紹介・目次


Copyright ゥ 1999-2000 Y. DELLOYE.